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だから、星に願うのだ。
じょうへき
じょうへき
見えない壁がそこにあった。
どうしても越えられない、そんな壁が。
きっとこの壁の向こうには未来が広がっている。
長い間、この壁の前に立っていたけど、
もう進まないといけない。
私は知りたい。未来のことを。
私は知りたい。愛の形を。
私は知りたい。キミのことを。
えぴそーど 1
えぴそーど 1
予定調和の入学式だった。
決められた台詞。おそらく例年通りであろう演出。
新入生の俺たちの胸に添えられた造花がやけに色あせていたのを覚えている。教室に戻れば担任のやけに堅苦しい話。
「3年間の間に将来自分がどうなりたいのかをしっかりと考えるように。」
…俺にとっては重たい話でしかなかった。
俺、三間森 都月(みまもり つづき)は地元のこの何の変哲もない一般の高等学校に進学した。強いて言えば進学も就職もある、そうした進路の方向が多岐にわたっているのはありがたいことだ。
数日が経った。特にやりたいこともなかった俺にとって、部活動勧誘はまぶしいものだった。休み時間になると先輩たちが教室に入ってきて、部活動PRを始める。賞状やトロフィーなどの功績を掲げるところもあれば、小芝居をして笑いを取りにくるところもあった。
「一緒に天文部を復活させませんか。」
ひとつ、印象に残った部活があった。と言ってもそもそも部活にすらなっていないようだが。
「この高校には小型のプラネタリウム投影機があるにも関わらず、天文部は廃部してしまったみたいなんです。私はそんな天文部を復活させます!私と一緒に星の世界に行きましょう!!!」
まばらな拍手の中、その背の低い女子生徒は教室を去っていった。…星なんて、まともに見たことないな。
授業が終わると、クラスの面々は部活動の体験に行くために教室から足早に出ていった。気がついたら一人になっていた。
担任は全員何かの部活に入るよう言っていた。 …まあ、適当なところに入ってしれっと幽霊部員になればいいか。そんな感じで教室を出たところに女子生徒が立っていた。
「えっと…。」
…天文部の人だ。
「なんですか。」
「あーえっとね!私、天文部の人間で、ご存じの通り部活動の体験入部の時間なんだけど、ちょっと、だーれも部室に来てくれなくて。誰か暇そうな人いないかなーって校舎を回ってたんだよね。」
どうやら天文部に未来はないようだ。だが、俺にとっては都合がいい部活なのかもしれない。入るだけ入って、勝手に部活がつぶれてくれれば俺も後々楽になる。
「キミは暇だったりする?」
「…まあ。暇ですよ。」
「だったらさ、星を見てかない?」
たどり着いた教室のルームプレートには「天文部」と書かれており、教室のど真ん中にプラネタリウムの投影機が置いてあった。
「ほんともったいないと思わない?こんないい投影機があるのに部活がつぶれてるなんて。昔、天文部が有名になりそうな時期があったらしくて、学校のバックアップもあって購入されたらしいんだけど、後継者がいなくなっちゃったんだって。ただ、処分するのももったいないってことでずっと残ってたんだそうな。」
投影機をいじりながら彼女は頬を膨らませた。
「よし、準備できたよ。部屋を暗くするの手伝ってもらっていい?」
近くにあったカーテンを閉めると教室から光が無くなった。うっすら投影機のモニターの明かりだけが残っている。
「…それじゃ、スイッチ…オン!」
初めてだった。それこそプラネタリウムなんて作り物だとすら思っていたのに。
満天の星が胸に響いて止まなかった。
「…俺、入りますよ。天文部」
「え!ほんと!!」
「俺、1年の三間森 都月って言います。」
「私は1年の樹三月 こころ(きみづき こころ)です。よろしくね、みまもりくん。」
「……え、同級生?」
「……あ、そうだよ?」
これが、俺とこころの出会いだった。
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